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北アルプス

二十年ほど前、大糸線の穂高駅にはじめてやってきた。このあたりは精密機械の会社がそろっていて、EPSONとかソニーの工場がある。何のイベントだかは忘れたけれども、ソニーの出井会長や、ネットラジオで一度だけご一緒したモーリーさんがいたことを憶えている。当時はJolly Rojerという番組をやっていた。

ただ、ポイントはそこにはない。この穂高駅で下車した瞬間、北アルプスが目に入ってきた。それがぼくにはどうしても忘れられない原体験で。何かいままで分からなかったことが一瞬ですべて分かったような気がした。恐らくぼくが見た山は常念岳か、せいぜい鹿島槍だと思う。でも、あのときぼくが受けたのは天啓みたいなものだと思う。その後、ぼくは車で何度も家族をこの場所につれてきた。

いくら穂高駅からの風景が美しかったからといって、いきなり北アを登ろうとは思わなかった。実際、十年間くらい寝かせていた。そもそも北アは眺めるものであって、登るものだとは思っていなかった。あるとき、新穂高ロープウェイに乗る機会があった。「俺もあんなところに昔登ったんだよなぁ〜」と家族連れの若いパパが槍を見上げて溜息をついた。ぼくは笠も槍も登ったことがなかったので、ただ普通に羨ましいなぁと思った。

スイッチがいつ、なぜ入ったのかはよく憶えていない。ぼくは45歳をすぎたあたりから、がむしゃらに山に登るようになった。最初は家族で関東近郊の低山や百名山を登っていた。最初のうちは山小屋に泊まるのが恐ろしかったが、やがて小屋泊の山行も気にならなくなった。槍、剱あたりから夏の岩山にも慣れてきた。そして昨年の穂高・ジャンでピークを迎えた。

二十年ほど前、穂高駅で見たあのくらくらするような風景は、いまではもう平凡なピークにすぎない。常念、燕、蝶。このピークや稜線は登れてあたりまえ。もっと難しいコースを探して大キレットとか不帰儉にチャレンジする。二十年の歳月を経て、なぜ到達不可能と思えたあのピークが凡庸になったのか。小さなチャレンジを続けると、絶対に到達できないと思っていた高所にたどり着けるらものらしい。Life is beautiful.

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